冷たいバー/読者のミステリー体験
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冷たいバー/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

冷たいバー

栃木県 30歳 山田宏

 8年前に大学を卒業し、大手印刷会社の支所に就職しました。そして約2か月の期限で、本社研修のため、東京都T市にある本社寮に入寮しました。1か月もたつと研修生活にも慣れて、自由時間には本社で知りあった同僚たちと居酒屋などに飲みにいくようになりました。

 そんなある夜のことです。
 一日のスケジュールを終えた私は、軽く一杯、飲みにいきたくなったのですが、あいにく寮の仲間が不在だったため、ひとりで出かけました。
 その夜はめずらしいことに霧が深く、5〜6メートル先も見えないほど。それでも散歩気分でしばらく歩いていくと、やがて人通りの少ない十字路に出ました。その十字路の角の古い雑居ビルの1階にある一軒のバーに目を留め、そこに入ってみることにしました。入り口に店名入りの電飾看板が置かれている小さな店でした。
 木製のドアを押しあけて店の中に入ると、一瞬、ヒヤリとした冷気のようなものに包まれました。店内を見わたすと、カウンターの中に50代のバーテンダーと、スツールに30代後半の女性がいるだけ。その女性にカウンターの前に座るようにすすめられました。
 照明のせいか彼らの顔色が妙に青白く見えます。でもそれ以上に、私にはふたりの何やら悲しげな表情が気になりました。
 バーボンの水割りを注文した後、店のママであるその女性と世間話をしながらグラスを傾けはじめました。
 不思議なことに、酒には強いはずの私が、なぜかその水割り一杯を飲み終えるだけでかなり酔ったような感じになり、眠くなりました。店内の冷気にも身震いしていた私は、長居は無用とばかりに店を出ることにしました。
 勘定を払ったとき、釣り銭を渡してくれたママの指先が異様なほど冷たかったことを今も覚えています。思わず息をのんでしまったほどです。
 店を出た私は、深い霧の中をトボトボと歩いてそのまままっすぐ寮に帰りました。そして妙にさっきの店のことが気になりながら、眠りについたのでした。

 次の日、その日のスケジュールを終えた私は、もう一度、昨夜の店に行ってみることにしました。なぜかずっとあの店のことが気になっていたからでした。
 ところが、あの十字路のところまで来て驚きました。昨夜はあった雑居ビルがないのです。その雑居ビルがあった場所は、きれいに整地された空き地になっていたのです。
 キツネにつままれたような気持ちで近くにあるタバコ店のおじいさんに店のことを聞いてみました。
 するとおじいさんは怪訝(けげん)そうな表情で、
「その店が入っていた雑居ビルなら半年ほど前に火事で全焼したが」
 と、いうのです。しかも店のふたりもその火事で焼死したとのこと。驚きのあまり声を失いました。
 私は昨夜、冥界に迷い込んでしまったのでしょうか!?


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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