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「八尺様」の抱擁/オカルト探偵・吉田悠軌の”女が怖い”
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「八尺様」の抱擁/オカルト探偵・吉田悠軌の”女が怖い”

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オカルト探偵が追いつづける怪談のなかの「怖い女」。第2回は、投稿系ネット怪談の傑作として今日まで語り継がれるキャラクター「八尺様」。意思疎通不可の恐ろしい怪物として登場したそれは、ネットの二次創作文化と結びつくことで意外な変貌を遂げていった。

文==吉田悠軌 挿絵=森口裕二

赤い女と白い女

 現代怪談を追いかけるときに、私がいつも注目しているのが「赤い女」である。かなりの長身で、赤い服に身を包んだ女たち。実話怪談・都市伝説・学校の怪談のジャンルを横断し、たびたびその姿を表す謎の存在。
 この連載でも、オカルト探偵である私の最大のライバルにして運命の女ファム・ファタールこそが「赤い女」だとくりかえし述べている。

 ただ複雑なことに、現代怪談シーンでは「白い女」たちもまた、頻繁に登場してくるのだ。もちろん、白い着物は死に装束でもあるので、白服が幽霊の典型イメージになるのも仕方ないことではある。
 それはたとえば、漫画『座敷女』(望月峯太郎、1993年)のサチコ――白いトレンチコートを着た長身の女怪人――が与えた影響も強かっただろう。日本人への影響といえば映画『リング』(監督・中田秀夫、1998年)の貞子―― 長い黒髪に白いロングワンピース――は言わずもがな。ネット怪談では、ひきこさん――白いぼろぼろの着物で異様に背が高い――も重要だ(初出は2001年)。

 これら「白い女」の流れから生まれたのが、八尺様なのだ。
 全ネット怪談に出てくるキャラクターたちと比べても、トップの知名度と人気をほこる大スターではないだろうか。ただこの八尺様、実は「元来のキャラ造形」と「一般に流通したイメージ」が、やや乖離している点に注意しておきたい。スターとはいつも、実際とかけはなれた虚像を、大衆から強いられてしまうものなのだ。

 八尺様の物語は2008年8月26日、2ちゃんねる「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない? 196」スレッドに書き込まれた。

「八尺様」の初出となる、2008年8月26日投稿の2ちゃん ねる「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない? 196」 (5ちゃんねる過去ログ倉庫より)。

――投稿者が「高校三年にあがる直前」のこと。祖父母の農家に遊びにいった彼は、奇妙な女に出くわす。2メートルを越す長身の女で、「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」と呟き、帽子をかぶって「白っぽいワンピース」を着ていたという。
 それは人間ではなく、集落内に古くから封じられた「八尺様」と呼ばれる存在だった。成人前の若い人間、特に子供を好み、魅入られれば「数日のうちに取り殺されてしまう」のだという。ターゲットにされた投稿者は、なんとかして八尺様の魔の手から逃れようとするのだが――。

 概要からもわかるとおり、八尺様は口裂け女やひきこさん、または座敷女サチコのような、怪物なのか人間なのか曖昧な「怪人」ではない。はっきり霊的存在と目され、しかもカシマさんのような悪霊というより、祟り神や厄災に近いような、人間よりずっと上位のものとして扱われる。

 また伊藤龍平は『ネットロアウェブ時代の「ハナシ」の伝承』にて八尺様に触れ、こう述べている。

ネットロアにはしばしば「民俗学的なエッセンス」が現れる。
語を変えれば、ネットロアには「伝統」を装いたがる話がある。
八尺様というネーミング自体が民俗神を装っているのだ。

 座敷女サチコなら「ストーカー」、ひきこさんなら「ひきこもり」「虐待」というように、現代社会問題を背景とする先輩たちと八尺様とでは、恐怖のための戦略が異なっている。むしろ「くねくね」「コトリバコ」のような土着・因習といった恐怖イメージ(伊藤のいう「通俗的民俗学イメージ」)が付与されたのだ。

 2008年時点において、ネット怪談はすでに成熟期を迎えていた。――「八尺様」については、実話ではなく創作として扱うが―― 投稿者はそれまでの成果を参照しつつ、そこからずらし・ひねりを加えたストーリーテリングを目指しただろう。つまりサチコ・貞子・ひきこと続く「白い女」のキャラ造形と、「民俗ホラー」との融合である。
 これは確かに功を奏し、「八尺様」はネット怪談の大スターとして扱われた。ただ、後に巻き起こるキャラクター変化は、投稿者の想定をはるかに越えていたはずだ。

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