逃げるのか!/読者のミステリー体験
見出し画像

逃げるのか!/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

逃げるのか!

群馬県 23歳 鈴木栄司

 私の家族がその家に引っ越したのは、私が小学6年生のころの12月でした。父が急病で入院したのは、それからわずか1週間とたたないころでした。幸い、そう長い入院ではありませんでしたが、これがすべての前兆だった気がします。

 年が明けた元日、私は街のマラソン大会に出場し、車とすれちがいざまに足をひかれてしまいました。それも、5メートルほど走ってからようやくひかれたことに気づくという奇妙な事故でした。
 そのとき、靴に残っていたタイヤの跡が、真横に横切るようについていたのも不思議でした。その車とはかなり距離をおいてまっすぐすれちがったのですから、そんなふうに跡が残るはずはありません。その年の正月は、足にギプスをして過ごさなければなりませんでした。

 だれもいない2階から、ズドン、バタンと、まるで人が暴れてでもいるような音が昼夜なく聞こえはじめたのは、そのころからでした。すぐに家族のだれかが見にいくと、とたんに音は止み、もちろん2階にはだれもいません。特に2階の四畳半の部屋では、だれもいないのによく人の話し声や笑い声が聞こえることがありました。
 その家が原因不明の火災で全焼してしまったのは、5月9日でした。そのときたまたま家族はみんな出かけていて、だれひとりケガなどする者はいなかったことだけが幸いでした。ただ、家で留守番をしていた愛犬が、火災のためかどうかパニック状態に陥ってしまい、かわいそうですが保健所へつれていかれました。

 その後、しばらく仮住まいをつづけ、1年半ほどして同じ場所に家を新築しました。が、住んでみると2階からの奇怪な話し声や笑い声はあいかわらず聞こえ、近くの祈祷師にお祓いをしてもらっても変わりませんでした。私と兄は、3日に一度は金縛りにあっていました。

 そんなある夜、深夜1時を過ぎたころでした。2階の自分の部屋でラジオの深夜放送を聞いていると、玄関が開く音がし、階段をあがってくる足音が聞こえました。その足音が私の部屋の前で止まったので、だれだろうと思いドアを見ていると、カギをかけてあるはずのドアが、いきなりガチャンと音を立てて開けられたのです。
 びっくりして、私は思わずそばにあった木刀を手にベッドの上に飛びあがり、頭から布団をかぶってしまいました。すると、侵入者は布団をはがそうとします。私は必死に布団をおさえましたが、相手はものすごい力です。あっという間に、はがされてしまいました。

 そのとき初めて私は、侵入者の姿を見ました。それは、全身をぬれた茶色い毛でつつんだゴリラのような生き物(?)でした。一瞬あと、私は夢中でそいつの胸のあたりめがけて木刀を突きました。

 と、その瞬間、その姿がフッと消えてしまったのです。私は、なんの手ごたえも得られないまま勢いあまって、ベッドから転げ落ちてしまいました。あわてて起きあがり、部屋を見まわしましたが、もうどこにもその姿はありませんでした。

 そんな出来事は、もちろん私だけではなく両親や兄にもしばしば起きていたようです。

 やがて父が引っ越しを決めました。
 引っ越しは、何日かにわけて行われました。その3日目のことでした。家にはだれもおらず、私ひとりでシャワーを浴びていると、突然、目の前に置いてあった石鹸が、フワーッと浮かびあがったかと思うと私のほうに飛んできたのです。とっさに私が身をかわすと、石鹸は壁のタイルにぶつかり、グチャッとつぶれました。
 そのときです。どこからか「逃げるのかーっ」という、低い無気味な声が聞こえてきました。私は、そのあまりの恐ろしさに、体もふかずに夢中で服を抱きかかえ、そのまま外に飛びだしました。ちょうど、母と兄が来たところでした。私がわけを話すと、母が私に塩をかけてくれました。その日、兄にも何かとんでもないことが起き、そのためにお清めの塩を持っていたのだとのことでした。

 翌日、私たちはその家から最後の荷物を運びだしました。が、私たちが車で、その家を離れようとしたときのことです。私が、何気なく家のほうをふりかえると、なんと家の前に、ボロボロの着物を着た、まるでゾンビのような老人が立っていて、私たちのほうに来ようとしているのが見えたのです。そして、車が走りだすと同時にその老人の姿が、煙のように消えてしまいました。
 それから1週間後、その家は業者によってとりこわされました。その作業中に、何人もの人が思わぬ事故でケガをしたそうです。その後、しばらくして、あの土地がもとは無縁仏の墓地だったことを知りました。以来、そこは空き地になっています。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

★「ムー」本誌の特集やオリジナル記事が読めるウェブマガジン「ムーCLUB」(月額900円)の購読はこちらから。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
ムーPLUS

ネットの海からあなたの端末へ「ムー」をお届け。フォローやマガジン購読、サポートで、より深い”ムー民”体験を!

いいことありますよ!
スーパーミステリー・マガジン「ムー」の公式サイトです。 ウェブマガジン「ムーCLUB」にて極秘情報を配信中。世界の謎と不思議をご案内します。 ※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを禁じます。