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天神様の白蛇/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

天神様の白蛇

栃木県 31歳 高橋清二

 私がまだ高校生のころの話だ。私の通っていた高校の隣に、幅2メートルほどの市道をはさんで神社があった。道路と校庭を区切っているのはヒバの垣根で、そのところどころに生徒たちがこっそりと出入りするための穴があけられていた。そして月に1度、全校生徒で、その穴の補修も含めた垣根の手入れと、校庭の小石を拾ったり雑草を抜いたりという定期的な勤労奉仕のようなものが行われていた。

 その作業のあった、ある日のことだ。ぼくたちは垣根の下に、どのようにつけられたかわからない不思議な跡があるのを発見した。前日までの雨のために土もやわらかくなっていたのか、車輪の跡のようなものまで残されていた。
「三輪車で子供が入ってきたのだろう」
「いや、車輪の跡とはちょっと違うようだ」
 いいあいながらよく見ると、その跡はそこから垣根に沿って10メートルほど続いたあと、プッツリと途切れている。しかもその跡のところどころが、まるで金粉でも撒いたようにキラキラと光っているのだ。ぼくたちは、その不思議な跡を見ながらそれぞれ勝手なことをいいあっていた。

 するとそのとき、前方で作業をしていたグループから喚声があがった。何が起きたのかと思い、行ってみると、垣根の上をゆっくり滑るように、一匹の大蛇が進んでいた。
 全身、雪のように白い蛇だった。太さは、自転車のタイヤチューブくらいあり、全長は2メートル以上。車輪の跡と見えたものの正体は、この白い大蛇の通った跡に違いなかった。ぼくたちは、その偉容に声を失い、ただこわごわと白蛇の動きを見つめるだけだった。
 だがその中に、山林業の家に生まれたKという同級生がいた。彼は蛇というものを怖がらなかった。彼はぼくらを押しのけ、ふらりと白蛇に近づいたかと思うと、次の瞬間、手にしていたヒバの剪定(せんてい)用の大バサミでその白蛇の首を一気にチョン切ってしまったのだ。

 ぼくたちは息をのみ、その場を動くこともできなかった。

 白蛇の首は弧を描いて校庭のほうへ飛び、3メートルほど先のプールの中にザブンと音を立てて落ちた。そして水を血の色に染め、静かに底へ沈んだまま浮きあがってはこなかった。

「K、なんてことをしたんだっ⁉」

 ぼくは叫んだ。他の同級生たちもいっせいに彼を見た。すると彼は、どうして自分がそんなことをしてしまったのかわからないとでもいうように、片手に下げた血の跡も生々しい剪定バサミを見つめて顔を引きつらせている。

「天神様の守り神だぞっ!」
 だれかがいった。
「首を拾って弔ってやれよ」
「神主さんに、報告したほうがいいぞ」

 ぼくたちは口々に、思い思いのことを叫んでいたが、顔を蒼白にしてガタガタと震えているKを見ているうちに、やがてだれもが黙りこんでしまった。首を失った白蛇は、2〜3人の目撃者によれば、その瞬間ドッと道路側に落ち、とたんにそれまでの緩慢な動きがウソのように、すごいスピードで神社の森へ向かって這っていったという。

 この事件は、その後数日、学校内を騒然とさせていたが、いつしか忘れ去られていった。当のKも、落ち着きをとりもどしていた。
「たかが、蛇一匹だ。殺したって、どうってことないさ」

 ぼくたちはそういってKを慰め、彼もまた事件を忘れる努力をしたのだろう、やがてみんながすっかり白蛇のことを忘れていた。

 そのKが、自宅裏の雑木林で首つり自殺をしたのは、高校を卒業した年の6月、あの白蛇の事件からちょうど1年後のことだった。突然の死だった。
 その葬儀には旧同級生のほとんどが参列し焼香したが、彼の家族の話では、彼が自殺しなければならないような理由は何ひとつなく、それまでにそんな気配などもまったく見せなかったとのことだった。ただ、そのときの話の中で、ぼくたちが思わず互いに顔を見合わせて青ざめてしまった内容があった。彼が首を吊るのに使った荒縄が、なぜか白く塗られていたというのだ。まさにそれは、彼が殺した白蛇を象徴するものだった。

 かれが白い荒縄で首を吊るまでに、いったい何があったのか、今となっては知る術もない。今年6月は、ちょうどKの十三回忌に当たる。この事件によってぼくは祟りというものの恐ろしさを思い知らされたのだった。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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