1978年の「口裂け女」メディア報道/吉田悠軌・オカルト探偵
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1978年の「口裂け女」メディア報道/吉田悠軌・オカルト探偵

「口裂け女」の噂は、1979年の大流行によって初めて日本全国へ広まった……そんな”定説”のマスクをはがし、オカルト探偵が「これでも……?」とデータを見せつける。1978年に埼玉で出現した「口の裂けた女」が報じられていた資料を発見したのだ!
ムー本誌に先駆け、前振り・速報記事をお届けする。

文=吉田悠軌 #オカルト探偵

1979年1月22日「名古屋タイムズ」

「……わたし、きれい?」
 宵闇に子どもを待ちぶせ、そう問いかけてくるトレンチコートの大女。マスクをはずせば、耳まで裂けた大きな口。鎌かハサミか包丁を手に、ものすごい俊足で追いかけてくる、ポマードが苦手でべっこう飴が好きな……日本の都市伝説・現代妖怪の代表選手。
「口裂け女」の名前を知らない人はいないだろう。

 彼女についての噂は、1979年前半に日本全国で大流行し、メディアも大きくとりあげる社会現象となった。
 どのように噂が発生・流行したのかについては、おおよそ以下のとおりの説明がなされる。
①発祥は岐阜県。1978年末頃から岐阜各地にて、噂が広まりだした。
②その状況をいちはやく取り上げたメディアが「名古屋タイムズ」(1979年1月22日)「岐阜日日新聞」(同年1月26日)。これこそ、口裂け女が新聞・雑誌に初登場した「メディア初出」である。
③そして79年初頭~6月にかけて、岐阜から日本全国へと噂が広がり、誰もが知るあの大流行となっていった。
 ――というのが、これまでの定説だった。

 しかし今……私、吉田が、この定説をくつがえす!

 私が調査したところによれば、①②③ともに「事実ではない」と判断できるからだ。
 言い換えれば
「口裂け女の噂は、1979年よりも前から、日本各地でささやかれていた!」
 ということになる。
 それらについては今後、「ムー」本誌およびこの「ムーPLUS」の私の連載記事「オカルト探偵」にて検証を重ねていきたいと思っている。
 ここでは、まず前哨戦として②の点。
「口裂け女の噂は、名古屋タイムズ、岐阜日日新聞がメディア初出である」
 ……という定説を、くつがえす!

名古屋タイムズ

「名古屋タイムズ」1979年1月22日付での報道。これまでの定説では、こちらが「口裂け女」報道の初出となる(※同記事にて、地元タウン誌で噂が取り上げられたことに触れてはいるが、当該資料は発行元からも失われている)。

岐阜日日新聞

「岐阜日日新聞」1979年1月26日付での掲載。これが口裂け女のメディア初出と語られがちだが、上記の名古屋タイムズの方が4日早いため、その点で既に事実誤認。

1978年7月の「文化新聞」

 実はこれらより半年以上も前に、口裂け女の報道はおこなわれていたのだ。
 それは1978年7月の埼玉県。
 ローカル紙「文化新聞」に三回にわたって掲載された、一連の記事である。

 文化新聞は、埼玉の飯能・日高の両市にて現在も発行されている地方紙だ。それだけに全国紙と比べ、狭いエリアでの噂ばなしを紹介することもある。

文化新聞 昭和53年07月02週 モザイク

「文化新聞」1976年7月6日号(資料協力=文化新聞)。

 まず1978年7月6日、「鹿山峠に美人幽霊!? 目撃者二人が入院!?」なる見出しの第一報が掲載。
「最近、宮沢湖周辺の飯能~寄居線県道に、ゾッとするような美人お化けが出るという話が、人魂のように巷間に飛びまわっている」と、二話の怪談が紹介された(強調・引用者。以下同)。
 一話目はタクシーに乗せた女性客が消えるという典型的な(当時ですら古臭い)タクシー怪談。
 それよりも注目すべきは「美女の口が耳まで裂けた」の小見出しで始まる二話目。
 飯能市の青年三人が、宮沢湖方面へのドライブ中、若い美女を見かけてナンパし、車に乗せる。ところが薄暗い山道に入ったところで
「女は、いきなりニャッと笑ったかと思うと、見る見るうちに、その真っ赤な口が耳のあたりまで裂けて、生臭い息を青年たちにフーッと吹きかけた」
 若者二人はすぐに車を飛び出したが、逃げ遅れた運転手だけは「“美女”の顔をたっぷり見たためそのショックは大きく」病院送りとなったのである。

文化新聞 昭和53年07月03週 1978年07月09日発行モザイク

「文化新聞」1978年7月11日号(資料協力=文化新聞)。

 続く7月11日の第二報「大モテの美人幽霊」では、前記事が大きな話題となり、文化新聞本社に電話の問い合わせが続出している様子を報告。
 怪談現場とされる宮沢湖周辺は、美人幽霊を見ようと埼玉各地から多くの人々が集まり、大騒ぎになっていたそうだ。

文化新聞 昭和53年07月05週 モザイク

「文化新聞」1978年7月27日号(資料協力=文化新聞)。

 そして第三報は7月27日「幽霊が逮捕された!? 鹿山峠にデマ乱れ飛ぶ」の記事。
 ①まず、宮沢湖の幽霊は生きた人間によるイタズラであり、その犯人が逮捕された……との噂が三つも発生。②しかし警察に問い合わせたところ、その逮捕騒ぎ自体が、そもそもデマ。実際にはイタズラ事件の逮捕者など出ていなかった……。
 という複雑きわまりない、まさに都市伝説らしいハチャメチャな騒動ぶりを伝えている。

「口が耳まで裂けたような女」の登場

 ここで注目したいのはデマの内容だ。同記事では、三つの噂をこのように伝えている。
 ①「整形手術に失敗し、醜い顔になった若い女性が、どうせ昼間では男にもてない、せめて夜陰にまぎれてのボーイハントを試みた揚句の“お化け騒動”」だったという噂。
 ②は変人の男が「顔にお白粉べったり。口が耳まで裂けたように口紅を真一文字に塗りつけ」仮装したイタズラだったという噂。
 ③はヒマをもてあました男好きの主婦によるボーイハント説。夜な夜な、宮沢湖周辺で「“男狩り”に精を出す。しかしこの主婦が、人間が三分、化物が七分の“人三化七”といった御面相で」「お化けに感違い(原文ママ)」されたのだという。
 ③はともかく、①には1979年に大流行した「口裂け女」の噂との類似性が、はっきり見て取れるではないか。また②の口紅メーキャップ説も、初期型の噂によく見られるものだ。

 これこそが、名古屋タイムズ、岐阜日日新聞よりも早い、口裂け女の「メディア初出」記事といっていいだろう。
 もっとも、想定される反論としては、以下のようなものがあるかもしれない。
「“口の裂けた女”というイメージは、昔話の山姥にもあるように、化け物の見た目としては一般的なものだ。そういった怪談がたまたま1978年7月の埼玉で流行っただけのこと。78年に岐阜で発生し、79年に全国で大流行した『口裂け女』とはまったく関係ない」

 確かに、この文化新聞の三つの記事を提示するだけなら、そうした反論も可能だろう。
 我々のよく知る79年に大流行した「口裂け女」と、この78年の埼玉の幽霊騒動は、「口が裂けた女」のイメージが類似しているだけで、関連性はないのだろうか。

 いや、そうではない。
 私はなにも、この文化新聞の記事だけをもって
「口裂け女の噂は、1979年よりも前から、日本各地でささやかれていた!」
 と主張しているのでない。
 むしろこれは様々な調査にともなって出てきた、傍証のひとつに過ぎない。
 ただ「口裂け女のメディア初出はなにか?」という一点において紹介しただけなのだ。

1978年”以前”の口裂け女

 さらにいうなら、文化新聞だって現地の噂を素早くとらえていた訳ではない。
 この記事よりもずっと前、1977年の時点ですでに、ほぼ同じ「口の裂けた女」の怪談が、同エリアにてささやかれていたようなのだ。
 そして、この他にも様々な「口の裂けた女」が、1970年代の日本各地で噂されていたのである。紹介した例のように名前の曖昧なものから、「口裂き女」という名称のもの、または当時の時点ですでに「口裂け女」と呼ばれていたものまで……。

「口裂け女」は、1979年に大流行したものだけではない。

 なぜなら、そう主張する人々の体験談、非常に多くの証言が、私の元に集まっているからだ。
 その総数は、私個人が短期間のアンケートをおこなった現在までだけでも、約150件。
 無回答や別回答までふくめた「アンケート総数」ではない
「1978年以前に口裂け女とほぼ同じ噂を聞いた」という具体的な回答、かつこちらでフィルタリングをかけた信頼性のある回答だけで、150件近くあるのだ

 そうした調査の上で、私は主張する。
 先述の文化新聞でとりあげられた噂と、1979年に流行した「口裂け女」の噂は、姉妹のように関連しているものだ、と。どこかで枝分かれしたにせよ、大元は同じ噂から派生したものなのだ、と。
 したがって、口裂け女の噂の(今のところの)メディア初出は、文化新聞1978年7月6日号とすべきなのだ。

 そして繰り返すが、「1978年以前の口裂け女」調査は、メディア初出の特定だけで終わるものではない。
 その他のアンケート結果ふくめ、さらに細かい調査報告は、ムー2021年9月号の私の記事をお読みいただきたい。


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