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「ウブメ」の紐帯/吉田悠軌の”女が怖い”

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オカルト探偵・吉田の実家で発見された古い書類。そこには吉田家の秘められた歴史に迫る記録が残されていた。浮かび上がるのは、「ウブメ」のビジョン。探偵の推理の眼が、自らのルーツに向けられていくーー

文=吉田悠軌 挿絵=森口裕二

吉田家ヒストリーに秘められた謎を追う

 この前、実家の整理をしていたところ、わが家の墓にまつわる書類を発見した。
 私たち家族はとある理由で、父方の祖父や曾祖父母たちといっさい面識がない。埋葬者のなかで私が知っているのは、同居していた祖母ただひとりだけ。その他の面々については死因どころか名前すら、この埋葬記録にて初めて知ったのである。

 埋葬者10名のうち3名もが「死胎分娩」の赤子だったことに驚かされた。乳幼児死亡率は、昭和になってもまだかなり高かったのだろう。
 うち2名は妊娠10か月の死産だが、1名は8か月の胎児だった。その母親・吉田ヨシヱ(私の大叔母)も同日に死亡している。つまり彼女が妊娠中毒症(心臓弁膜症・急性腎臓炎とある)で死去したため、同時に胎児を摘出したのだろう。

 このとき、私はふと思った。世が世なら、大叔母は「ウブメ」に化けていたかもしれない――と。

 ウブメは、簡単に説明するのが難しい妖怪/幽霊だ。一般的イメージでは、白装束で腰から下を血で濡らし、赤子を抱いた女となる。その正体は妊娠中あるいは難産で死んだ女性。出会った人間に赤子を抱かせようとし、その赤子を抱きつづければ金や力など福がもたらされるケースが多い。特定の場に佇むものと、アクティブに移動するものがいる。こうした事例は「産女」と表記しておこう。
 同じウブメの発音で「姑獲鳥」と表すときもある。もともとは中国の古典籍に出てくる、人間の子をさらう鳥の妖怪だ。鳥形のイメージが強いものの、人の姿にもなるし、『酉陽雑俎ゆうようざっそ』では産死者が化したものと記述されている。そうした流れから、日本では「産女」と同一視して捉えたりもする。

 また日本各地に伝わる「子育て幽霊」も関連する。夜な夜な飴を買いにくる怪しい女を追跡したところ、ある墓の前で消える。土を掘り起こせば女の死体と、飴をしゃぶる生きた赤子がいた……といったパターンの民話群。この赤子が後に有名な高僧となるなど、特定人物の出生譚として語られたりもするが、話の基点はやはり妊娠女性の死である。

 姿形や行動パターン、赤子の生死、死んだのは妊娠中か出産時か……などなど。一見細かな違いながら、多種多様な性質の「ウブメ」像が語られている。それらの概要を説明するだけで紙数が尽きるので、本記事では視点をひとつに絞っておく。

 それは私が、大叔母とその子の死亡記録を見て感じた恐怖心だ。
 昔の日本では妊娠中の女性が亡くなった場合、妊婦の腹を裂いて胎児を取り出していた。「身二つ」とも称される、「胎児分離」の習俗だ。腹に胎児を残したまま葬れば、母が化けて出ると考えられたのである。今回は死んだ妊婦・胎児を「身二つ」にしようとした人々の恐怖心を考察してみたい。

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