
あなたの隣人も大統領も別人!? なりすまし怪人「ゴム人間」の恐怖/宇佐和通
最近、ネット上を飛びかう「ゴム人間」という言葉。
古くからあるネタの焼き直しかと思いきや、その背後には近年急激に発達するAIやテクノロジーの影響が見え隠れする。それは「陰謀論」「都市伝説」ですませられるものなのか──?
◉都市伝説レポート◉ 文=宇佐和通

古くて新しい都市伝説
“ゴム人間”。
ここ数年、ネット上で目にすることが多くなった言葉だ。「ゴム人間/有名人」というキーワードで検索すると、世界中の政治家やエンターテイナー、俳優などの写真が大量に表示される。ただ、表示されるのはすべて“偽物”だ。“ほとんどの人が疑いなく信じている本人”ではない。
ゴム人間を見分けるのはそれほど難しくないらしい。あごのラインや耳の形が不自然だったり、耳の穴がなかったりする。精巧なゴムマスクをかぶっているからだ。この程度のトリックで騙される人がいるとはとても思えないのだが、陰謀論や都市伝説のジャンルでは最新の強めのネタとして認識されている。
検索で出てくるのは画像だけではない。ゴムマスクで女優エマ・ワトソンになりすました女性が元通りの姿になるプロセスのYouTube映像も複数ある。

再生回数の合計が1000万回を超える一連の映像に限っていえば、近ごろさまざまな媒体で騒がれているディープフェイクを使ったものだろう。ただ、ディープフェイクという映像テクノロジーの存在と完成度について知っている人の絶対数はどのくらいだろうか。ネットリテラシー低めの人が見たら、ゴム人間現象というキャッチーな響きの話を現実として受け容れてしまうかもしれない。
ローテクな印象が否めないゴムマスクを使った変装の完成度については、蓄積された刷り込みのようなものがあると思う。たとえば、ハリウッドの大ヒット映画『ミッション・インポッシブル』シリーズでは、微妙な表情まで自然に表現できるゴムマスクが登場する。こうした背景から生まれ、ネット上で瞬く間に広がった都市伝説と陰謀論のマリアージュのような話は、トランプ前大統領が何かにつけて発していたフェイクニュースという言葉のイメージも盛り込みながら、広く知られることとなった。
昔ながらの陰謀論を吸収して肥大化
筆者もネットで検索してみたが、ゴムマスクによるなりすましの実例が相当数見つかった。すべてに画像あるいは映像が提示されている。
なかでも印象深いのは、2019年にブラジルで起きた脱獄未遂事件だ。
リオデジャネイロの刑務所に収監されていた男性が、面会に来た19歳の娘に変装して脱獄を試みた。ゴムマスクをかぶっていることを刑務官に見破られ、元通りの姿になる過程を記録した映像は、エマ・ワトソンの映像の完成度とはほど遠い。
しかし、こうした実例があるからこそジャンル全体の話ひとつひとつが増殖し、ゴム人間の存在も真実として認識されていく。