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映画『きさらぎ駅』永江二朗監督×オカルト探偵・吉田悠軌対談ーー異界駅を体験させる”恐怖”の視点

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2ちゃんねるの書き込みから生まれたネット怪談「きさらぎ駅」が映画化された。手掛けたのは『真・鮫島事件』の永江二朗監督。広く知られ、”異界駅”のジャンルも生み出したネット怪談は、いかに映像化されたのか?
オカルト探偵・吉田悠軌と語り合う。

構成=吉田悠軌 #オカルト探偵
取材協力=イオンエンターテイメント

左:永江二朗監督、右:吉田悠軌

実況されたネット怪談の現在

吉田悠軌(以下、吉田):『きさらぎ駅』観ました。非常に面白かったです。もう2ちゃんねる怪談、ネット怪談の映画化といえば永江二朗監督で決まり、という感じになっていますね。

永江二朗(以下、永江):前回の『真・鮫島事件』のインタビューで吉田さんもおっしゃってましたが、「鮫島事件」を超えるものといえば「きさらぎ駅」しかないな、と。

吉田:しかし「きさらぎ駅」というネット怪談は、“実況”が肝じゃないですか。体験者・投稿者である「はすみ」がリアルタイムで2ちゃんねるに書き込み、スレッド内で他の人とやりとりしていくという。
だから今回も“実況”部分をふくらませて映画化するのかと思いましたが……いい意味で裏切られましたね!

永江:“実況”をやるかどうかは大きな分岐点でしたね。しかしずっとケータイで文字を書き込んでいる絵面では伝わりづらい。それならばいっさい“実況”を捨ててしまおうと決断しました。

吉田:最初の方で、ケータイ画面に“圏外”がドン!と映し出されてましたもんね(笑)。
じゃあ本作で「きさらぎ駅」がどう語られるかというと、十数年経った後での体験者の語りなおしですから、まさに”実況”の真逆ですよね。

永江:そこはまた、本当の「はすみ」さんが七年後に戻ってきた――その証言が嘘か本当かわかりませんが――という現実の設定も、いちおう活かしているんですね。

吉田:『2ちゃんねるの呪い』『真・鮫島事件』など、これまで永江監督が手がけてきた2ちゃんねる怪談、ネット怪談の映像化というのは、根本的に「誰かが語った怪談の語りなおし」ということじゃないですか。それについては毎回上手くひと捻りしながら再構成していっているな、と思ってましたが、今回の『きさらぎ駅』がひとつの到達点になりましたね。

永江:十年にわたって色んな角度から撮り続けてきた成果ですかね(笑)。「きさらぎ駅」というすごいネームバリューにようやく挑むことができました。

吉田:「きさらぎ駅」なんて、もはや2ちゃんねるから離れてSNSで語られている状況になっている。若い人たちは2ちゃんねる発祥ということすら知らないかもしれない、日本人の常識みたいな知名度になってますもんね。

永江:この前も、歌手のAdoさんが電車を乗り過ごしたことを「このままだと、きさらぎ駅着いて消息不明」みたいにツイートしていて(笑)。それが2万イイネされているんですよ。あんな若い人でも普通に使う言葉になっているし、皆に伝わっているんだという。

吉田:象徴的ですね。もはやネットミームですらない一般用語になっている。

「視点」がもたらす恐怖体験

永江:そんな超ビッグタイトルの映画化なので、監督生命がかかっているぞと気合いを入れました。脚本打ち合わせ、撮影の準備、カメラテスト、リハーサルを繰り返し、色々な手法のチャレンジなど……今回は本当に監督人生を賭けて「やりきった」と言える作品になりましたね。
皆が思う「きさらぎ駅」の斜め上をいく、ファンもこのきさらぎ駅は想像していなかったという感じになったのでは。
ネットにあった片足の老人とか祭囃子とか、トンネル出たところの親切なおじさんとかは生かしつつ、自分なりの脚色を入れ込んでいきました。
その中でも根底にあるのは、若い人たち、小中高生にもホラー映画を観に来てほしいという思いです。

吉田:ホラー映画マニアでない人、怪談マニアでない人にも届く映画になっていますね。
ネタバレせずにどこまで話せばいいのかというところを悩みますが……。まず前半部分の映像の見せ方はビックリさせられました。この手があったか、と。

永江:今作はテレビゲームの「FPS」手法を取り入れています。F P Sは今の子どもたちが親しんでいるゲームの主流でもありますし。
『きさらぎ駅』については、昔からの怪談ファンにも観てもらいたいですが、小中高生たちに「こういう角度のホラー・ファンタジー映画があるんだぞ」と提示したかったんですね。
本作はG区分(※年齢にかかわらず誰でも観覧できる)なので、子どもたちだけでも観に来れる。彼らにも「FPS映像の映画があるの!?」と興味を持ってほしい。そんな思いがあって、FPS手法を取り入れました。

吉田:これまでのホラー映画でも「POV」形式は多用されていました。主人公が手持ちカメラで場面を映していくというやつですね。「なんでこの人、こんな危険な状況でも、ずっとカメラ持ち続けてるんだろう?」という疑問はよく湧きましたけど(笑)。
それとも違う、斬新な語り口だと思います。

永江:『ハードコア』(2015年)というアクション映画では全編FPS手法を採用してましたけど、ホラーでやった人はいないんじゃないかな。僕の知る限りでは、ですが。

吉田:『湖中の女』(1946年)も完全主観視点でしたが、あれもホラー映画ではない。少なくとも現代ホラー映画の流れにおいては、大量生産されて飽和したPOV形式に対抗した、上手い回答になっていると思います。

永江:前半シーンについては、本人視点で、いっさいアップもできず、ワンサイズでずっと撮影し続けるという、ひとつのチャレンジになってますね。


「異世界もの」としての「きさらぎ駅」

吉田:「きさらぎ駅」という怪談の世界は、異世界ものとはいえルックは普通の日常風景じゃないですか。別にぱっと見でファンタジー要素がある訳ではない。都会でも山奥でもない、ちょっとした田舎に過ぎない。そこをFPSで見せることで、いい意味でアンリアルな世界観を演出できたな、と感じました。
しかも実験のための実験ではなく、きちんと物語と絡んだ必然的な手法になっています。回想であり、体験者の一種アンリアルな語りであるところも意味深です。初めてのチャレンジにして、いきなり大正解を叩き出したのでは。

永江:スタッフからも「FPS手法での、日本映画におけるナンバーワン監督になっていくといいんじゃないか」と言われました(笑)。これはやればやるほど面白い手法だな、という手ごたえは掴みましたね。POVのように「この人、なんでカメラを回してんの!?」という疑問もないですし(笑)。その他にも色々とアイデアを盛り込めたし、FPS手法のホラー映画、まだ様々な可能性がありますね

吉田:前半部分は敢えて現代の「ゲーム感覚」を心掛けたそうですが、後半部分もまた違ったかたちの「ゲーム感覚」が強く押し出されてるな、と感じました。特に名作ホラーゲームである『SIREN』とか……。

永江:おっしゃるとおりです。またいわゆる「異世界もの」、『Re:ゼロから始める異世界生活』などの作品にもあるような発想。脚本段階で、あの発想を取り込めないかなと思いついた時に「お、これは面白くなるぞ!」と確信しましたね。この発想を実写映画で、しかも「きさらぎ駅」と組み合わせたら、観客の斜め上をいけるだろうな、と。

吉田:主人公が、はじめから素直にあの構造を受け入れているところも「今っぽいな」と思いました。本作については、たとえアンリアルになっても、まどろっこしい部分はすっとばすべきですもんね。

永江:いってみれば、Jホラーっぽくない手法ですね。そこも若い子たちを意識してます。規制もあって、もうずっと地上波テレビではホラー映画が放映されにくい。それでも例えば『犬鳴村』(2019年)から若い子たちがホラー映画に親しめる状況になってきている。
そんな中、Jホラーっぽくない映画もある、こういうホラー映画もあるんだ、と裾野を広げていければ嬉しいですね。

吉田:いい意味で観客に笑いが起こるようなシーンもある。物語のカラーが途中でがらっと変わったりもする。どんでん返しもあったりして、それらがテンポよく連なっていく。82分というサイズもいいし、まったくダレる瞬間がない。非常に優れた構成ですね。

永江:「ダレない」というのは確かにキーワードとして心がけました。今の若い子は、長いものを観るのは苦手なんじゃないか、と。だからギュッ!と詰めて詰めて詰め込んで、82分を疾走させることに気をつけました。

次回作の構想は…?

吉田:もちろん監督の才能や努力や経験があってこそですが、「きさらぎ駅」という題材との出会いも幸福だったと思います。異世界に行くこと、その体験を語ること……という題材を上手く再構成したのが映画『きさらぎ駅』の面白さなので。
名実ともにネット怪談映画の第一人者になったかなと思いますが、次回作は?

永江:『真・鮫島事件』『きさらぎ駅』ときたので、清水崇監督の村シリーズ三部作のようにもう一作いければと思っていますが。例えば、「リゾートバイト」とか「八尺様」とか……。
これまでも色々な手法で手を変え品を変えやっているので、それを踏まえて次回作も、題材も手法ふくめ、じっくり考えてみます!

<公開情報>
映画『きさらぎ駅』
6月3日(金)より全国公開
監督/永江二朗 脚本/宮本武史
出演/恒松祐里、本田望結、莉子ほか
配給:イオンエンターテイメント/ナカチカ

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