
タイの歓楽街に出現する心霊”ピー”怪奇談/髙田胤臣
霊の存在が身近なタイには、やはり心霊スポットは数多い。その中でも夜の街……水商売のエリアには怪奇譚が多いという。現地取材で集まった、当たり前に、身近な”ピー”との遭遇譚を紹介。
文・写真=髙田胤臣
タイの水商売と心霊”ピー”たち
タイには、いやタイも、というべきか。水商売に絡んだ怪談が数多くある。海や川などの水辺の話や、タクシーの後部座席からいつの間にか消えた女性の座っていた場所が濡れていたなど、日本と共通するような「ピー(幽霊)」と「水」は切っても切れない縁にあるようで、その繋がりからか”水”商売の世界にもたくさんの怪談が存在する。
タイは性風俗産業が無駄に充実している。タイは経済格差が激しく、低所得者層出身者がなんとか家族全員を養うくらいに稼ぐには女性の場合は水商売、男性の場合は麻薬密売が手っ取り早いほどだ。日本のような遊ぶ金欲しさで夜の世界に足を踏み入れるタイ女性は多くなく、仕方なくこの稼業に従事する人が多い。
観光客にとってはまったく見えてこない性風俗産業従事者の裏事情は、まさに貧困と金と欲望が渦巻く世界である。そんな場所に幽霊=”ピー”が集まってこないはずがない。実際、ナイトクラブで働く女性に話を振れば、いくらでも怪談が飛び出してくる。多くが彼女たちの実体験で、誰しもひとつふたつ、怖かった体験談を持っているし、勤め先の店内でピーを見たという話も少なくない。
日系企業に勤める駐在員や、日本人観光客を相手にするカラオケクラブが80軒前後も立ち並ぶタニヤという通りがバンコクの中心地にある。ここは人気店とそうでない店の明暗がくっきりと分かれるため、不人気店はあっという間に淘汰されていく。しかし、人気店であっても建物自体は古い。タニヤが日本人向け歓楽街になったのは90年代だと言われるが、それ以前からビジネス街として機能していたため、タニヤ通りの左右に立つビルはいずれも古いのだ。
日本人クラブが集まるタニヤ通り。
厚さ1センチもない男
一時期は人気店として君臨していた「S.Q.」という店はホステスを何十人も抱えていた。多くの店がワンフロアで客を迎え入れる中、このS.Q.は2階に個室をいくつも備えていた。個室ならほかの客の目も気にならないので、重宝する客も多い。これもまた人気の理由だった。
しかし、このS.Q.のある部屋だけソファーの位置がほかの部屋とは違っていた。ほんの1、2センチほど壁から離されていたのだ。なぜなら、ここには中華系男性のピーが立っていたという目撃情報が相次いだからだった。従業員だけでなく、エアコンなど設備の修理工もそのピーを見かけていた。修理工はしばらくは本当にそこに人がいると思っていたほどはっきりと見えたのだという。
それが本物の人間ではないことは一目瞭然だった。
なぜなら、その男性は厚さが1センチほどもない存在だったからだ。まるで絵のようであるが、目撃者によればそれは紛れもなくそこにいる人でもあったという。