再婚の夜/読者のミステリー体験
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再婚の夜/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

再婚の夜

三重県 35歳 柴原秀摩

 百聞は一見に如かず、という言葉があります。私が霊魂の存在や、あの世と呼ばれるものがあることを信じるようになったのも、やはり私自身がなんとも説明のしようのない不思議な体験をしてしまったからにほかなりません。その私の体験とは私は、今から5年前に亡くなった友人、Yさんの幽霊に出会ったのです。

 Yさんは、私より5歳年上でしたが気持ちの若い人で、とにかく私とは、人生に対する考え方から趣味まで意見が合って、まさに無二の親友といえる仲でした。そのYさんが、思いもよらない交通事故にあって突然死んでしまったのは、ちょうど彼が結婚して10日目のことでした。
 私が、生きているYさんと最後に会ったのは、その結婚式の前日でした。のっぴきならない用事があってどうしても結婚式に出席できなくなった私は、式の準備に追われて忙しい彼に会い、心からのお祝いを述べたのでした。そのときYさんは、いざ式を挙げるとなるといろいろ大変で、もうやめてしまいたいのだが、女房になる女性のM子さんが妊娠しているので逃げられないと、うれしそうに笑いながら冗談をいっていました。私は今でもあのときのYさんの笑顔が忘れられません。

 Yさんの死後、それまで彼の両親とつきあいのなかった私は、どこかで気になりながらも彼の妻M子さんとも、しだいに疎遠になっていきました。
 やがて風の便りに、M子さんが実家へ帰ったこと、おなかの子を堕ろしたことなどを聞きました。私は、そのことがなんだかとても残念でなりませんでしたが、どうすることもできませんでした。そして時は流れ、5年がたちました。私は、Yさんが亡くなったときの年齢になっていました。

 ある日、私のイトコで小学校の教員をしている男性から電話がありました。職場の同僚が結婚するので、その式に出席する彼を式場まで送り迎えしてくれないか、というものでした。その日、それほど忙しくもなかった私は、そんな彼の頼みをこころよく引きうけました。

 結婚式場は、美しい志摩の海が見わたせるきれいなホテルにありました。私の自宅からは車で30分ほどでした。その日、私はまず隣町のイトコの家に寄り、彼を乗せてホテルに向かいました。そして、彼が結婚式に出ている間、ホテルのレストランで夕食をとったり風景をながめたりして時間をつぶした私は、やがて式場から出てきたホロ酔い気分の彼を自分の車に乗せると、帰途についたのでした。
 その帰りの車の中で、彼は私に今日の結婚式のことをいろいろと話しはじめました。最初は私も、そんな彼の話を聞きながら気軽にあいづちをうっていたのですが、やがて私はショックのために、口がきけなくなりました。どうやら、彼の話に出てくるその日の花嫁というのは、死んだ私の友人Yさんの妻だったM子さんだったのです。
 もちろんイトコは、今日の花嫁にそんな過去があることなど知りませんでした。その花嫁が確かにM子さんかどうかを知ろうと、私は彼にいろいろと質問し、彼女に間違いないと確信したうえで、彼にそのことを話すと、さすがに驚いていました。私たちは、きっとこれも何かの縁なのだろうと話し合いました。

 隣町のイトコの家の前に着き、彼を車から降ろすと、しばらく休んでいけという彼の誘いを断って私は自宅へと急ぎました。なんとなく、少しでも早くひとりになりたいような気分でした。夜の田舎道、曲がりくねった海岸道路、もう何百回と通った道ですが、その夜だけは何か違う気がしてなりませんでした。Yさんが交通事故にあったのもその道の途中でした。やがて、その場所に近づきました。

 と、そんなときでした。突然、全身にゾッと悪寒のようなものが走りました。ハッと息をのんで助手席を見るとそこに、Yさんの姿があったのです。

 Yさんが死んだと知ったとき、私は、化けてでもいいからもう一度彼が会いにこないかと願ったものでした。しかし、実際にそうして彼の幽霊を目の前にすると、言葉を発することもできません。まさに血も凍る思いとは、そのときのことをいうのでしょう。
 Yさんは、まっすぐ前を向いていました。死者の顔ではあっても、その横顔は生前とまったく変わらない優しさを感じさせました。ただ、交通事故でつぶれた両足はそのままになっており、そのあまりの痛ましさに、私はあふれ出る涙をどうすることもできませんでした。彼の全身は青っぽい光のようなものにつつまれていて、はっきりと存在が感じられるのです。
 私は横目でそんなYさんを見ながら車を運転しつづけました。私の心に、Yさんの優しい気持ちがどんどん伝わってきます。互いに、なんの会話を交わしたわけでもありません。が、私はしだいに、とても満たされた気分になりました。やがて、行く手に私の住む町の灯りが見えてきました。と、そのときなぜかごく自然に、私はYさんに話しかけていました。

「Yさん……やっぱりダメなのか。これで終わりなのか」

 自分でも何をいっているのか、まるでわかりませんでした。まったく無意識のまま、意味不明の言葉が自分の口をついて出た、といった感じでした。
 するとYさんは一瞬、ハッとするほど寂しそうな笑顔を私に向けたかと思うと次の瞬間、まるでそれまでついていた灯りが消えるようにフッとその姿を消してしまったのでした。思わず私は急ブレーキを踏み、あらためて、ついさっきまでYさんのいた助手席をながめました。が、彼がそこにいたことを示すものは何ひとつ残されてはいませんでした。

 彼は私に、何をいいたかったのでしょうか。M子さんのこと、あるいは生まれることのなかった彼の子供のこと……。私には、何もわかりません。また、あのとき自分がいった言葉の意味さえ、いまだによくわからないのです。そしてそれ以来、Yさんは私の前には現れません。
 私はこの不思議な体験で、死後の世界が存在することを知りました。いつか私が死んだとき、またYさんに会えるものと信じています。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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