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なかったバス停/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

なかったバス停

東京都 39歳 中里剛

 会社の先輩のAさんの家は、私のアパートの近くで、通勤のバス停も一緒でした。そのため仕事帰りには毎日のようにふたりで駅前の居酒屋に寄り、最終バスの時間まであれこれ語り合っていました。

 その日も、仕事を終え電車を乗り継いで自宅のあるT駅に着くと、いつものようにふたりで居酒屋に寄ったのですが、話に夢中になっているうちに時間を忘れ、あわててバス停まで走りましたが、すでに最終バスは出たあとでした。
 ただ、ふたりの家は駅から歩いても30分ほどでした。
 どうせなら、もう少し飲んでから歩いて帰ろうということになり、結局、私たちが家路をたどりはじめたのは、深夜2時近くでした。
 冬の冷たい夜風の中を歩くうちに酔いもすっかりさめ、ふたりは自然に早足になっていました。

 やがて、前を歩いていた私が足を止めたのは、ふたつ目のバス停を通りすぎたあたりでした。目の前の県道脇に、記憶にないバス停があったのです。バス停の名前を記した丸い看板と、四角い時刻表のついたポールが立っており、横には木製のベンチが置いてあります。後方には、いつも見ているゴルフ練習場のネットがあるので、道を間違えていないことは確かでした。

「こんなところにバス停なんてありました?」
「新しくできたんじゃないの?」

 Aさんは気にしていないようでした。
 でも、バス停の看板は色あせて、ところどころ錆びています。とても、新しいものには見えません。それに気味の悪いことに、そのバス停のあたりだけが白くボーッと浮かび上がっているように見えるのです。

「何してるの? 早く帰ろうよ」

 と、Aさんに促されて、再び歩きはじめましたが、どうにも気になります。そこで、しばらく行って振り返りました。

 その瞬間、私はアッと息をのみました。
 さっきまでだれもいなかったそのバス停に、肩まで髪を伸ばした若い女性が立っているのです。異様なまでに白い肌とその痩せ方も目につきましたが、この季節にワンピースに素足という格好も変でした。あたりは町工場と畑だけで、通っている車も通行人もありませんでした。彼女は突然、そこに現れたとしか考えられませんでした。

 私に気づいて振り返ったAさんも言葉を失っています。
 そして、その女性は、すっと、こっちを向いたのです。

 その瞬間、Aさんは「いいから、早く行こう‼」と叫び、いきなり走りました。私も、その声に思わず走りだし、あとはいつものバス停でAさんと別れて家に着くまで一度もうしろを振り返りませんでした。


 その夜、夢の中に、あのバス停と彼女が現れました。
 恐怖に目覚めた私は金縛りにかかっており、足元に彼女が立っていました。彼女は私の顔を寂しそうに見つめたあと、闇に吸い込まれるように消えました。

 翌朝、いつものバス停でAさんと会った私が、昨夜のことを話そうとすると、彼は青ざめた顔で首を振りました。どうやら彼女は、Aさんのところにも現れたようでした。

 後日、アパートの大家さんに話を聞くと、あのあたりに、ずっと昔はバス停があったそうです。ただ私とAさんが見たような女性に心当たりはない、とのことでしたが……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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