特異点も事象の地平面も存在しない! 最新理論で暴くブラックホールの正体/水野寛之
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特異点も事象の地平面も存在しない! 最新理論で暴くブラックホールの正体/水野寛之

とてつもなく強大な重力を持ち、近づくすべてのものを飲み込むブラックホール。かつては〝理論上の存在〟と考えられていたが、観測技術の向上によって実在することが確認されてから、その研究は飛躍的に進歩してきた。
最新理論が解き明かした暗黒天体の正体を追う。

文=水野寛之 イラストレーション=久保田晃司

パート1 謎の暗黒天体を撮影!

 2019年4月10日、日本の国立天文台も参加する国際プロジェクト、「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」がひとつの発表を行った。およそ5500万光年先にある超大質量ブラックホールの撮影に成功したというのだ。

 ブラックホールは光すら脱出することができない特殊な天体であり、これまでブラックホールそのものを観測することはできなかった。では、どうやって“見えない”はずのブラックホールを撮影できたのだろうか? そのカギは「ブラックホールシャドウ」にある。
 ブラックホールの背後に銀河などの光源がある場合、ブラックホールに近い距離を通過しようとする光は、ブラックホールの非常に強い重力に捉えられ、吸い込まれてしまう。一方、ある程度離れた領域を通過する光は、ブラックホールに吸い込まれはしないが、やはりその強い重力の影響を受けて、軌道をねじ曲げられる。その結果、観測者からは、光が通過できない部分は黒く、その周囲はぼんやりと明るく見えることになる。
 背後からの光によってぼんやりと浮かびあがる“ブラックホールの影”、文字通りこれがブラックホールシャドウなのだ。
 EHTはこのブラックホールシャドウの撮影を目標として、世界13か国、200人以上の研究者が力を合わせたプロジェクトである。研究者たちは世界各地にある8つの電波望遠鏡を同期させて、地球の自転を利用することで直径1万キロに相当する電波干渉計を構築し、天体観測を行った。
 観測のターゲットは、地球からおとめ座の方向に約5500万光年離れた領域にある巨大楕円銀河M87。以前から、この銀河の中心には巨大な質量を持ったブラックホールが存在すると考えられていた。また、5500万光年という距離は、宇宙のスケールからすれば比較的近いといえる距離である。
 つまり、M87は観測に適したブラックホールといえるのだ。

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巨大楕円銀河M87の中心にあるブラックホールシャドウ。イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が世界で初めて撮影に成功したブラックホールの姿だ(写真=EHT Collaboration)。

ブラックホールの正体を追いつづけるEHT

 2017年4月、EHTはM87の中心を観測。そのデータを解析し、何通りもの方法で処理を行ったところ、ぼんやりとした光の中に黒い穴が浮かび
あがる様子を画像化することができた。
 プロジェクト内部で何度も検証した結果、これがブラックホールシャドウであると結論づけられた。人類史上初めて、ブラックホールの撮影に成功したのである。
 もちろんこのプロジェクトは画像撮影だけで終わりではない。得られたデータを研究解析することで、ブラックホールの正体に迫ろうとしているのだ。
 2021年3月には、ブラックホール周辺に広がる磁場の画像化に成功した。また、7月には楕円銀河ケンタウルス座A(NGC5128)の中心にある、ブラックホールから飛びだす「ジェット」を、これまでにないほど鮮明に捉えることに成功している。
 ブラックホールの周囲にはガスが渦まいており、X線や熱を放射している。これを「降着円盤」という。この降着円盤の磁場によって、あたかもブラックホールから飛びだしているかのように見える高速のプラズマ噴流が生まれる。これをジェット、あるいは「宇宙ジェット」と呼ぶ。
 ジェットが生まれるメカニズムはまだ明らかになっておらず、EHTのプロジェクトがジェットの謎を解明するカギになると期待されている。

 また、EHTでは太陽系が所属する天の川銀河(銀河系)の中心にあるブラックホール「いて座A*(エースター)」の観測も行っている。
 天の川銀河の中心にあるということは、それだけ周囲に光源となる天体も多いため、観測には困難がつきまとう。しかし、このブラックホールの状態を詳細に知ることができれば、遠い将来に訪れる天の川銀河の運命も予測できるようになるかもしれない。
 着実に歩みを進めるEHTのブラックホール研究。次はわれわれに、ブラックホールのどのような姿を見せてくれるのだろうか。

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(右)EHTが撮影した楕円銀河ケンタウルス座Aのジェットの根元の様子と(左)銀河全体の疑似カラー合成画像(写真=Radboud University; ESO/WFI; MPIfR/ESO/APEX/A.Weiss et al.; NASA/CXC/CfA/R.Kraft et al.;EHT/M.Janssen et al.)。

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(上)ブラックホールに近づいた光の軌跡の模式図。ある距離以上に近づいた光はその重力に捉えられ、それよりも遠い位置を通過する光は進行方向を変えられる。(下)地球に向かってくる光の経路を斜めから見た図(国立天文台リリース記事より引用/写真=Nicolle R. Fuller/NSF)。

理論から導きだされたブラックホールの存在

 今でこそ、ブラックホールが存在することを疑う者はいないが、実際にその存在が認められたのは、それほど昔のことではない。では、ブラックホールの研究と発見されるまでの歴史を紐解いてみよう。

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