眠ってしまいたい/読者のミステリー体験
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眠ってしまいたい/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

眠ってしまいたい

栃木県 52歳 黒田清一郎

 私が住む町から南西へ50キロほどいったところに、その道路はある。地元の新聞にもとりあげられ、付近の人ばかりかそこを通る人や車からも恐れられ、わざわざ遠回りをする人もいるほどに県内では知れわたっている〝魔の道路〞だ。その一本の道路の、わずか100メートルほどの間で、たてつづけに3人の人間が奇怪な死に方をしているのだ。
 その道路は、採石で有名な山奥の町へつづいている県道で、砕石を積んだダンプカーの往来が激しく、以前から事故は多かった。この3人も、いずれもダンプカーに轢かれて即死している。だが、これが単なる交通事故として片付けられないのは、3人ともが、なぜか道路の真ん中で寝ころんでいるところを轢かれているという点であった。

 最初の犠牲者が出たのは今年の5月のことで、役所に勤める中年の男性だった。つづいて、建設作業員。そしてつい最近、近くの結婚式場に勤める男性が3人目の犠牲者となった。その男性など、自転車を安全なところに立てかけたうえ、少しもどって道路に横たわったと思われるのだ。ほかのふたりの場合もふくめて、まったくの自殺行為としかいいようがない。
 もちろん、なぜ3人がそんなことをしたのかは今もって不明だ。またその3人を轢いてしまったほうが、全員が共通して、人を轢いたことにまったく気づかなかった、といっているのも謎のひとつだ。警察でも異例の注意を呼びかけているが、いつ第4の犠牲者が出るかと町中の人々が戦々恐々としているのが実情だ。
 そして、先日のこと。久しぶりの同窓会に出席した私は、駅まで帰るついでに、この道路を通ってみることにしたのだ。少し酔っていたこともあったが、人々が〝魔の道路〞などといって恐れる風潮を、以前から私自身があまり好ましく思っていなかったせいもあった。
「そんなバカなことがあってたまるか!」
 私を引き止め、車で送るという友人たちにそういって、私は歩きはじめたのだった。
 3人が轢死したところは、花や線香が供えられていたのですぐにわかった。時間は夕暮れどきで、3人が事故にあったという深夜とは違い、ダンプカーの往来もそれほど激しくない。私はその場所にかがみこんで、手を合わせた。そういうときに目をつむるのは自然な行為だ。

 ところが、その瞬間だった。私はじつに奇妙な感覚にとらわれた。まわりのいっさいの音という音がプッツリと遮断され、自分が今どこにいるのか、まったくわからなくなったのだ。
 さらに不思議なことに、閉じた目を開けようとしても、なぜかまぶたが重くて開けられないのだ。というより、このまま眠ってしまいたいという強い誘惑に駆られ、どうしても目を開ける気にはなれないのだ。
 合掌している姿だから、そのままでは眠れない。私は、その場に横になりたかった。だが、そのとき私の脳裡に3人の犠牲者のことが浮かんだ。きっと3人は、こういう状態のまま道路の中央に出て、ごろりと横になり、快い眠りに入ってしまったのではないだろうか⁉

 そう思った瞬間、私の背筋に悪寒にも似た戦慄が走った。同時に、私はパッと目を開き、全身の力を奮いたたせて立ちあがると、足早にその場を歩き去った。そこから数百メートル離れるまで、私はずっと睡魔と闘い、背後を振り返ってみたくなる衝動と闘わねばならなかった。
 あの奇妙な感覚が、3人の死者の霊によってひきおこされたものなのか、それとも、その道路にもともとひそんでいる不思議な魔力のようなもののせいなのか、私にはわからない。が、いずれにせよ、私が危うく第4の犠牲者になるのをまぬかれたことだけは間違いない。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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