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位牌のかけら/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

位牌のかけら

群馬県 14歳 久笹子

 私がとても恐ろしい体験をしたのは、今から5年前、まだ9歳のときでした。ある夜、眠っていた私は、両親の激しくいい争う声に目を覚ましました。両親は、私の寝ている部屋の隣の部屋でいい争っていました。
 どうしようかと思っていると、いきなり父が私の部屋に入ってきました。そして、そこにあった死んだ祖母の位牌を手にすると、力いっぱい床に叩き付けて壊してしまったのです。私は、一生懸命に眠っているふりをしていました。父と母は、それからもしばらく何かいい争っていましたが、やがて静かになりました。私もいつの間にか眠ってしまったようでした。

 翌朝、起きると、もう学校へ行く時間でした。昨夜のことをすぐに思いだしましたが、壊れた位牌のかけらはなく、両親はいつもどおりにしているので、私は何もいわず急いでしたくをして出かけました。あれは夢だったのかもしれないと思いました。しかし、学校が終わって家に帰ると、やはり祖母の位牌がどこにもありませんでした。思いきって母にそのことをいうと、母はもうちゃんと片付けたから安心しなさいというだけで、何も詳しいことを話してくれませんでした。私は、それで納得するしかありませんでした。

 その夜のことです。私はすでに位牌のことを忘れ、ぐっすりと眠っていました。ところが、そのうち私は突然、いいようのない悪寒に襲われて目を覚ましたのです。時計を見ると、午前2時をすこし過ぎていました。

 と、そのときでした。部屋のどこかから、いきなり「痛いよう、痛いよう……」と声が聞こえてきたのです。びっくりして見回すと、部屋の隅に、血だらけで、ボロボロの着物を着た祖母がぼんやりと立っていました。亡くなる前には、とても私をかわいがってくれた祖母でした。
 それが幽霊だろうとはわかっていましたが、まったく恐怖感など感じませんでした。
「おばあちゃん、大丈夫⁉」
 私は夢中で祖母に駆け寄ると、祖母の手をとって、お風呂場につれて行きました。そして、着物を脱がせてシャワーを出し、体の血を洗い流してあげました。祖母は生きていたときとまったく変わりませんでした。私も、そのうち本当に生きている祖母に接しているような気持ちになっていました。祖母が死んだということを、すっかり忘れてしまっていたのです。
 祖母は血だらけでしたが、体のどこにも傷らしきものはありませんでした。ボロボロになった着物は、そのまま洗濯機の中に入れ、母のパジャマを持ってきて祖母に着せてあげました。
 それから、祖母をつれて部屋に戻り、一緒に寝ました。私は、小さいころのようにまた祖母と寝られるのがうれしくて、祖母に「今までどこに行っていたの?」などと、いろいろな質問をしました。が、祖母は何も答えてくれず、ただにこにこと笑って私を見ているだけでした。そうこうするうちに、いつの間にか私は眠ってしまったようでした。

 翌朝、目を覚ますと、私のベッドの中に母のパジャマが無造作に置かれていました。それを見て、すぐに昨夜のことを思いだし、祖母を捜しましたが、どこにもいません。確か昨夜、祖母の着ていたボロボロの着物を洗濯機の中に入れたはずだと思い行ってみましたが、それもありませんでした。
 急いで両親のところに行き、昨夜の出来事をできるだけ詳しく必死に話しました。最初はバカにして笑っていた両親も、あまりの私の真剣さに、私の話をやがて信じてくれました。私のベッドの中に母のパジャマがあったことが、夢として笑ってすまされるにはあまりにも不自然であり、また、父が壊した位牌が祖母のものだったということも、私の話の裏づけになったようでした。

 その日のうちに母が近くのお寺に電話をして相談したところ、壊れた位牌はお寺で焼いて、また新たに作りかえればよいとのことでした。さっそく母は、壊れた祖母の位牌をお寺に持って行き、新しく作りなおしてもらいました。
 それ以来、祖母の霊が私の前に現れたことはありません。両親も、あれからずっと仲がよく、新しい祖母の位牌を大切にしています。ただ、今になって私は、自分がとても貴重な、恐ろしい体験をしたものだとゾッとしています。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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