じっと見ているやつ/読者のミステリー体験
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じっと見ているやつ/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

じっと見ているやつ

愛知県71歳 原田一男

 いつごろだったかまでは覚えていないが、俺がパチンコ店で玉を打っていると、いつも必ず、いつの間にかそばにきて、じっと見ているやつがいた。
 俺のパチンコは、たまに勝ってもせいぜいタバコと換えるくらいが関の山で、下手の名人なのだ。最初からたいてい勝つ気もないから、ほんの退屈しのぎ、暇つぶしで、損をしにいくようなもの。だから、だれがそばにきて見ていようと腹も立たないし、そいつもどうせ、俺の下手さ加減に感心して見ているのだと思っていた。
 そいつは俺と違って、見るからに人のよさそうな顔をしていた。歳も俺と同じくらいで、非常に穏やかな感じだから、俺より人格者に違いないだろう。
 俺は、昭和15年の外国航路を振りだしに、ずっと船乗り稼業を続けてきた。そのため長年いろんな人間にもまれ、潮にもまれ、生きるか死ぬかの瀬戸際を体験してきた。何しろ太平洋戦争も真っただ中の海で、最高16時間も救命具なしに泳いだこともあるのだ。そんな海での経験が、今でも人に、俺の人相には険がある、といわせているのだろう。
 穏やかな顔には徳がある。家内も息子も人に好かれるが、俺はあまり人に好かれない。だから外交は専ら家内と息子に任せている。俺が出ていくと、まとまる話もまとまらなくなるのだ。

 ところで──
 パチンコ店でいつも俺のそばに来て見ているやつのことだが、あるとき何を思ったか、俺を喫茶店に誘ってくれた。おとなしくついていき、コーヒーを飲みながら話を聞くと、やつは稲永というところに住んでいて、いつもここまで歩いてくるという。帰りはバスだろうというと、往復歩きだそうだ。老人優待バスがあるではないかといってやると、やつは歩くほうが体にいいという。負け惜しみでもなさそうだ。
 俺の家は稲永よりもはるかに近い中川本町だが、ゼロハンスクーターを愛用している。心臓病で通院しているからだ。ま、心臓病といっても一種の老人病であって、慢性化している。よくも悪くもならない。

「昔は人生50年といったもんだ。それを考えりゃ、俺などいつ死んでもおつりがくるよ。ま、死ぬときゃあ死ぬだで、くよくよしてもしかたがねえ」
 と、俺がいうと「気をつけりゃあよ」と、やつはいった。

 やつはいつも昔の陸軍の戦闘帽をかぶっていた。それが妙に板についていた。やつはきっと陸軍では一等兵だったのだ。背も低いし、とても将校や下士の感じではない。やつも苦労したのだろう。いずれにせよ、やつも俺もあまり出世しそうなタイプでないことは確かだ。そんなところにも共通項があったのだろうか。

「どこへ行っても、下っ端よ。この歳になる今でもだ。あんまりパッとせんのう」
 と、笑い合った。

 だが──
 そいつが、いつの間にかパッタリと来なくなった。
 やつの家が稲永にあるというだけで、俺はやつについて何も知らんのだ。そういえば、娘が嫁入りして出ていったが、息子は去年、嫁をもらったといっていた。ふたりとも子供はまだだともいっていた。
 もしかしたら病気か、と心配していたら、1か月ほどしてひょっこり姿を見せた。
「おい、どこぞ悪かったかや?」
 内心ホッとしながら、さりげなく聞いてみた。やつの顔色は心もち悪かった。すると、やつはあたりを窺うようにして、小さな声でいった。
「実は、俺……先月の末に、死んでしまってよぅ」
 エッ……と驚いて、思わずやつを振り返ると──
 やつの姿は、そこにはなかった‼

 次の瞬間、俺は……どうやらその場で倒れたらしい。真っ青になっていたという。

 俺はまったく覚えていないのだが、店の連中が大騒ぎしてすぐに救急車を呼び、病院に運んでくれたそうだ。
 いまは家にいる。もう体に異常はないのだが、あれから一歩も外に出とらん。やつも俺も、いまだにお互いの家を知らんのだが……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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