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生命線がないの/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

生命線がないの

岩手県 42歳 小坂井麻季

 あれは、今から5~6年前の冬のことだった。私はそのころ、六畳一間の小さなアパートに住んでいた。2階の部屋には同じ店に勤めているHさんが住んでいた。Hさんは、売れっ子のホステスできれいなひとだった。同じアパートに住んではいても店で挨拶を交わすくらいで、話らしい話などまったくしたことがなかった。もちろん、行き来もなかった。
 そのHさんが、あることから急に私の部屋を訪ねてきたがったり、店が終わってから一緒に帰りたがったりするようになった。来ても、何も話すことなどなかったし、帰るときも、ただ一緒に帰ってくるというだけのことだったが。

 そんなことが1か月も続いたころだった。
 ある夜、店が終わって彼女と一緒に帰ってきて、いつものようにアパートの前で別れようとすると、彼女が「ねえ、今夜、私の部屋に泊まってくれない?」といいだしたのだ。そんなことは、その夜が初めてだった。私は、「上と下の階じゃないの」と笑って取り合わず、自分の部屋に入った。

 それから10分ほどして、彼女が出掛けていくのがわかった。託児所に子供を預けているので、迎えにいくのだろうと思った。私は自分の寝る準備をして布団に入り、そのままいつしか眠ってしまった。
 だが、やがて私は、ドーンという大きな物音に飛び起きた。台所で、鍋か何か落ちたのだろうと思って行ってみたが、何も落ちているものはない。おかしいなと思いつつ、私はまた眠りについた。

 次の日、店に行くとHさんが無断欠勤していた。店から帰ってきたとき、なんとなく2階の彼女の部屋を見上げたが、電気はついておらず、窓のカーテンが閉められていた。

 その夜のことだ。眠っていた私は部屋の窓の外を、カサッ、カサッと雪を踏んで歩く人の足音がするのに目を覚ました。そのアパートの窓は隣家と接しているので、窓の外を人が通れるはずなどなかった。もしかしたら泥棒か、と思いながら恐る恐る窓を開けてみた。
 だが、窓の外には真っ白に降り積もった雪があるだけで、人の足跡はもちろん猫の足跡すらない。気のせいだったのかと、私は窓を閉めて再び布団に入った。ところが、目を閉じるとまたすぐに、カサッ、カサッという雪を踏む音が窓のすぐ外から聞こえだしたのだ。

 しかもそのとき————突然、勝手にテレビとビデオのスイッチが入ってテープが流れはじめ、押し入れの襖が開いたり閉じたりしだしたのだ。さらに、台所のほうでも何かが落ちる音がする。
 ところが、私がその恐怖に思わず飛び起きると、その瞬間にテレビとビデオのスイッチが切れ、押し入れの襖も動かなくなり、台所も静かになった。私は布団にもぐり込み、耳を澄ました。が、それきり何も異変は起きなかった。
 だが、異変はその夜だけでは終わりはしなかった。なんと、同じように奇怪な出来事が、それから4~5日も続いたのだ。私は店の友達に、自分の部屋が〝お化け屋敷〞になってしまったといって笑って話したが、内心は恐怖で死にそうだった。

 2階のHさんは、ずっと無断欠勤していた。そして彼女の部屋も、暗いままだった。

 勤め先の店長が、そのアパートの管理人といっしょにHさんの部屋を開けたのは、そんなころだった。彼女は遺体で発見されたが、彼女の生後5か月の赤ちゃんは奇跡的に生きていて助けられた。彼女はまだ30歳という若さで、脳溢血で亡くなったそうだ。

 私は、ふと彼女が欠勤する前夜のことを思い出した。私に泊まってほしいといったこと、私に手相を見せて「ねえ、ちょっと見て。私、生命線がないの」などといっていたことなどを。Hさんは、自分の死を予感していたのかもしれない。そして、自分の死を私に知らせ、子供を助けてもらいたくて、あんな不思議な出来事を次々と起こしたのかも……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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