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『まちカドまぞく』伊藤いづもワールドの神話観と神々、そしてオカルト愛
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『まちカドまぞく』伊藤いづもワールドの神話観と神々、そしてオカルト愛

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「まんがタイムきららキャラット」で連載中の漫画『まちカドまぞく』は、魔族になってしまった主人公の吉田優子(シャミ子)とライバルの千代田桃の掛け合いや、オカルト的な小ネタ、邪神像などのオーパーツのデザインが気になる作品だ。その作者は長野県諏訪地方で創作活動を行う伊藤いづも氏。単独インタビューによって、”きらら系”のイメージを覆す、ディープな話を聞いた。

構成=山内貴範 #ムー民クリエイター
取材協力=伊藤いづも、芳文社

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『まちカドまぞく』は伊藤氏のかわいい絵柄と、独特の世界観が融合した人気作。舞台の多魔市は、あらゆる宗教や文化が混在する日本の縮図……らしい!? 芳文社HP作品ページ

小学生でオカ板の住人だった

――伊藤先生は以前のインタビューで、異星人が登場する冨樫義博さんの『レベルE』がお好きと言っていました。子どもの頃から、オカルトをテーマにした漫画はよく読んでいたのでしょうか。
伊藤:はい、大好きでしたね。自然と超自然が同居している世界観の作品が好きで、『GS美神 極楽大作戦!!』『地獄先生ぬ~べ~』『シャーマンキング』などは、私の中に根付いているような気がします。中学生のころには『朝霧の巫女』や『ヘルシング』が好きでした。オカルト系の漫画はもちろん、派生したSF作品も好きです。今もオカルト系の漫画はありますが、ごりごりのブームは去ってしまった気がして、さみしく感じます。あと、2ちゃんねるのオカルト板に入り浸っていたこともあるんですよ。
――なんと、あのディープなオカルト板ですか。はまっていたのはいつ頃でしょうか。
伊藤:それが、小学生の頃なんですよ。……早いですよね(笑)。私が小学生の頃は「学校の怪談」ブームがあって、子ども向けのオカルトの本がいっぱい出版されていて、図書館では予約待ちが必要なくらいでした。『トイレの花子さん』とか、『地獄先生ぬ~べ~』がヒットしていたのも、その頃です。私は家にネット環境があったので、いろんなテキストサイトや掲示板をネットサーフィンしていたんです。
――当時は誰もがネットに接続できたわけではない時代ですから、さぞや、刺激的だったのではないですか?
伊藤:2ちゃんねるの中でもオカルト板は賑わっていて、ある日そのなかに「死ぬほどシャレにならない怖い話を集めてみない?」というスレッドが立ちました。私は小さい頃からお話をつくるのが好きだったので、怪談話を考えて投稿したりしていました。具体的に分かってしまうとせっかくの怖い話の神秘性が薄れてしまうので、どの話なのかは私の心にしまっておこうと思うのですが、その時の話の一つが洒落怖名作選みたいなまとめサイトに収録されていて、嬉しかったです。
――小学生の頃から才能を発揮していますね。ストーリー作りをその年齢で実践していたとは……
伊藤:考えたお話はいくつもあって、その中でも特に受けたものがあったんですよ。ですが、その話はいつの間にか全然知らない別な方が勝手に続編を継ぎ足したりなどして、私の創作意図と違う感じの話になってしまいました。これって、都市伝説が拡がっていく過程と同じなのかな、と思います。

古典、古代史好きでペンネームが”出雲”に

――ところで、伊藤先生は東京出身で長野在住なのに、ペンネームが“いづも”なのは、なんでだろう? と気になりました。もしかして、神話の舞台になった“出雲”が影響しているのでしょうか。
伊藤:ペンネームの由来を聞かれたのは初めてなのですが、その通りです(笑)。高校時代から古典文学が好きだった影響で、ペンネームを考えるときに『古事記』に登場する「八雲(やくも)立つ 出雲(いづも)八重垣 妻篭みに 八重垣作る その八重垣を」という和歌を参考にして、“やくも”にしようか、“いづも”にしようかと迷ったのです。小泉八雲が好きだったのでやくもになっていた可能性もあるのですが、出雲大社は東京にも分社があって身近だし、あやかっていづもにしました。
――伊藤先生は古典や日本神話などにも造詣が深いですね。
伊藤:高校時代に簡単な古文は勘である程度理解できていたので、きっと好きだったんでしょうね。その流れで大学では国文学科に在籍し、中世文学を専攻しました。その時も伝記物のような本を好んで読んでいて、日本の昔のオカルト話をまとめた『日本霊異記』や『宇治拾遺物語』、近世だと落語の怪談噺をまとめた物や『雨月物語』『南総里見八犬伝』などの読本系、近代文学では小泉八雲や柳田国男が好きでした。そういった経験が、私の創作の土壌になっているかもしれません。

夢魔も邪神像も天使も妖怪も、かわいく

――ここからは、伊藤先生の代表作である『まちカドまぞく』についてうかがいます。シャミ子は、夢の世界に入って人の感情を操ることができる“夢魔”ですね。なかなか漫画のキャラでは珍しい設定だと思います。
伊藤:はじめに、シャミ子みたいな弱々な子が、強い魔法少女に対抗できる設定ってなんだろう? と考えました。現実世界で太刀打ちできないなら、夢の中に潜れるならどうだろうと思い浮かんだのが、夢魔なのです。
――クルクルッとカールした頭のツノもかわいいですね。
伊藤:『きらら』で漫画を描くにあたって、かわいくて、特徴があって、自分で描いていて楽しいデザインにしたいと思いました。参考になったのは、『ラグナロクオンライン』のサキュバスですね。ツノと尻尾があるのも主人公として特徴的でいいなと思いました。魔族の服装もサキュバスのイメージです。でも積極的にお色気を出していくのではなく、そのへんにいそうな女の子が街中で突然えっちな服装に変身した方が興奮するなぁ…と思ってデザインしています。
――作品のマスコット的な存在といえば、邪神像です。実在しそうな呪術アイテムで、ユニークだなと思いました。なにかモデルがあるんですか?
伊藤:邪神像のネタは、『ドラゴンクエスト2』の邪神像ですね。まがまがしいものを封印された石の塊です。でも、デザインは『きらら』の漫画なので、魔力アイテムなんだけれど、愛すべき存在にしなきゃいけない。そこで、ヒントになったのが埴輪です。埴輪って、目と口を丸で処理しちゃう感じで、シンプルで印象に残る造形ですよね。あのちょっとした間抜けさをデザインに入れたら、ぴったりはまったんです。

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邪神像の造形上のモデルは埴輪。東京国立博物館に所蔵されている「踊る人々」がイメージとして近いかもしれない。重要なアイテムなのだが、ドアノブストッパーや古新聞の重しにされるなど、悲劇的な扱われ方をしているのは御愛嬌だ。(1巻62ページより)

――作中にはユダヤ教の天使であるメタトロン、狐狸精のリコ、日本の蛇の妖怪・蛟など、古今東西、神様から妖怪まで様々なキャラクターが登場しています。
伊藤:これは、私自身、日本や世界の妖怪や神様が、図鑑を読み込むくらい好きだからですね。そして、お話の舞台になる多魔市は、いろんなところから追われてきた多種多様な文化の吹き溜まりというコンセプトがあるんですよ。そもそも日本列島は、ヨーロッパや中国などの様々な文化が集まる終着点で、世界地図の東の果てにある辺境の地です。日本にユダヤ人が流れ着いたという説や、秋田にはヨーロッパの民族の生き残りがいるなどの説もありますよね。だから、多魔市に様々な神様や妖怪が登場するのは、あまり違和感のあることではないと思っています。
――なるほど、多魔市は日本文化の縮図ということですか。
伊藤:日本は歴史上、海外から入ってきた新しい文化と既存の文化が融合し、ローカライズさせることを繰り返してきました。異国の思想に対する懐が深いというか、ごちゃまぜにして全部まとめて取り込んでしまうゆるさがある。これが日本らしい文化を生み出していると思います。だからこそ、『まちカドまぞく』には、自分が好きなありとあらゆるオカルトネタをぶち込めるのです(笑)。

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メタトロンを筆頭に古今東西の神様が登場するのは、伊藤氏の造詣の深さと愛ゆえだ。(3巻90ページより)

――作品の魅力のひとつに、いたるところに出てくる小ネタが挙げられます。陽夏木ミカンが引っ越した部屋に貼られたお札にも、何やら怪しげな文字が書かれていますね。
伊藤:あのお札、実は全部に「悪いものを封印していますよ」「開けちゃダメですよ」と意味を持たせようとしたんですけど、〆切のタイムアップで調査ができず、書き込めなかったのが残念で……未だに悔いが残っています(笑)。ちなみに、中国にはそういう霊符を書くことを生業にしている方もいるので、正しい書き方のルールがあるんです。しっかり調べたかったのですが、残念です。

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魔法少女・陽夏木ミカンがアパートの壁紙をめくると、怪しげなお札が……「お札の一枚一枚に意味を持たせようと頑張ったんですけどね……忙しくてタイムアップでした(笑)」と、伊藤氏。(3巻20ページより)

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ヒエログリフを解読すると、「読んでくれてありがとう」と書かれている。伊藤氏によれば、「まさかここまで見る人はいないと思っていましたが、解読してくれた方がいて嬉しかったですね」とのこと。(2巻54ページより)

長野の風土や諏訪大社の七不思議を調査中

――伊藤先生は、長野県の諏訪地方にお住まいと伺っています。長野と言えば、大きな寺院や神社も多いですし、民話伝承の舞台にもなっています。そういった信仰文化への関心はいかがですか?
伊藤:ありますね。諏訪といえば、なんといっても諏訪大社がありますから。地域の方々は神様を厳格に信じているわけではありませんが、御柱が倒れた年は良くないことが起こるという伝承や、神社に縁の深い風習を大切にしているのです。少なくとも平安時代より前から存在すると言われていますが、これほど、土地に神社が根付いている地域は珍しいでしょう。御柱祭や諏訪大社の七不思議なども興味深くて、歴史を調べたりしていますね。
――縄文時代の土偶も多く出土しています。
伊藤:国宝の土偶がある「尖石縄文考古館」には、何度か行きましたよ。尖石にはほかにも面白いスポットがあるのですが、その一つが“尖石さま”です。大きな石が祀られているのですが、「石を掘ったら死ぬので、掘ってはいけない」と言い伝えられています。こういった伝承のある場所があちこちにあるのは、諏訪の魅力ですね。
――そういった長野の風土が、作品に影響していることはありますか?
伊藤:『まちカドまぞく』では、長野らしい場所が話の軸になっているところはないのですが……邪神像が酒漬けになったお酒が信州産だったり、軽井沢をもじった“重井沢”という地名が出てくるなど、所々に地元ネタは出てきます(笑)。

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黒魔術研究部の小倉しおんは、ホムンクルスの素材になる粘土の話題を出すなど、作者の分身なのでは?と思ってしまうキャラだが、「私そのものではないですよ(笑)。ただ、ほかのキャラではできないおふざけを入れられるので、ガンガン動いてくれるキャラですね」とのこと。背景に描かれた謎の小物にも注目。(2巻71ページより)

――伊藤先生は今後、オカルト系の作品を創る予定はありませんか?
伊藤:ゴリゴリのオカルトをやる予定はないのですが、最近編集さんと雑談した時に、神社本庁が舞台の漫画の設定を考えたことはありますね。
――『まちカドまぞく』とイメージが変わりそうですね。
伊藤:神社本庁は各県に支部がありますよね。その中でも伊勢神宮がある三重や、出雲大社がある島根は力があって、六波羅が独自の権力を持っている。そして、神社本庁が実は日本を動かす陰の組織として暗躍しているとか……。もちろん、内容的に描くのは難しいですけどね(笑)。今年の1月頭に、ツイッターで「帝国心霊研究会本部」という組織の写真がバズったことがあって、そこから得た発想でした。こういう名前の、歴史の裏で暗躍している組織があったら、ワクワクしませんか?
――実在の神社本庁ではなく、信仰に根差す秘密結社のような設定で。伊藤先生が諏訪大社ゆかりの地に住んでいることも、生きそうな設定ですね。『まちカドまぞく』はまだまだ続きますが、ぜひ神社や神々の漫画も読んでみたいです。
伊藤:私は神社が好きなので、神職が祝詞を詠唱して敵と戦う漫画は描いてみたいと思っているんです。やるなら祝詞の構成や文体はきちんと考えなければいけないので、大変ですが…。
――「ムー」読者が気づく細かい設定が楽しみです。
伊藤:最近の「きらら」はディープな世界を描いている作品がたくさんありますので、読み込んでみると、とっても面白いですよ。『まちカドまぞく』の6巻ではついに、シャミ子が魔法少女と魔族の真実を覗き見る展開になりますので、ぜひコミックスを読んでいただけると嬉しいです。

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『まちカドまぞく』6巻は、2月25日に発売予定。未読の方は、1巻からまとめ買いして、一コマ一コマを隈なくチェックしてみよう。今回紹介しきれなかった小ネタも満載で楽しめるはずだ。


伊藤いづも氏色紙画像

「ムー」読者のために色紙を描いていただきました! 黄金ジェットも飛んでいる! ムー民は細部に隠されたオカルト要素を発見しながら『まちカドまぞく』を読むべし。

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