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おにぎりを出す/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

おにぎりを出す

福岡県 20歳 有木千鶴子

 あれは、私が小学校に上がる少し前くらいのころでした。
 理由はよく覚えていないのですが、私がひとりで遠い田舎の親戚の家に行っていたときのことです。

 その家は周囲に水田の広がる静かな所にぽつんと1軒だけ立っていました。聞こえるものといえば小川のせせらぎとカエルの鳴き声くらいでした。とても大きな家だったという印象が残いえば小川のせせらぎとエルの鳴き声くらいでした。とても大きな家だったという印象が残っています。
 その家には私の祖母にあたるおばあさんと、私とは直接血のつながりのないおじいさんとが、ふたりだけで住んでいました。

 当時はおばあさんも元気で働いており、おじいさんは職人で、いつも忙しそうであまり家にはいませんでした。そのため、おばあさんが外に仕事をしにいくと、私は、広い家でひとりきりで遊んでいなければなりませんでした。
 その日、おばあさんは仕事に出る前、私に「今日は少し遅くなるかもしれないから、夕方になったら忘れずに戸棚に置いてあるおにぎりを玄関に出しておいてね」といって出かけていきました。
 おばあさんは毎日、近所のノラ犬たちにエサをあげるのを習慣にしていました。犬たちも、おばあさんにはよくなついており、それがそのころのおばあさんの静かな暮らしのなかでのたったひとつの楽しみになっていたようでした。

 その日も私はいつものようにオルガンを弾いたり、お人形遊びをしたりしてすごしました。そのうち、遊びに夢中になってしまい、ふと気がついたときには日がとっぷり暮れており、どこからか犬の遠吠えも聞こえてきました。
 しまった、と思ったのですが、もう外は真っ暗で怖くて玄関に出ることもできません。
 私の耳にはその犬の遠吠えが、おにぎりを置いておかなかった自分を責めているような気がしてならなかったのです。もしいま外に出ればその犬たちが自分に飛びかかってくるのではないか、という恐怖感がありました。

 おばあさんは、まだ帰ってきていませんでした。私はその犬の遠吠えが聞こえないように戸締まりをしっかりしてカーテンを引き、テレビの音を大きくして気を紛らわせようとしました。
 でも犬たちの声はだんだん大きくなり、しかも執拗でいやらしい鳴き方になってきました。いまからでも玄関におにぎりを置きにいってやれば鳴き止むのではと考えましたが、もしも家のすぐ近くまで来ていたらと思うと怖くてそれもできません。

 そこで私は、思いきって外を見ることにしたのです。
 縁側に行き、勇気をふるってガラス戸のカーテンをそっと開けてみました。

 その瞬間、私は悲鳴をあげました。
 なんと、そのガラス戸には獣とも人間とも見分けのつかない薄汚れた無気味な顔がベターッとくっついて、ジーッと私を睨みつけていたのです‼

 私はそのまま気を失い、その場に倒れてしまったようです。
 どれほどそうしていたのか、やがて仕事から帰ってきたおばあさんに肩を揺すられて私は目を覚ましました。

 おばあさんは私が遊び疲れてそこで眠ってしまった、と思ったようでした。私は自分の体験をおばあさんに話そうとしましたが、それをいえば自分が玄関におにぎりを出し忘れたことも話さなければならないことに気づきました。結局、私はおばあさんには何もいえませんでした。もっとも戸棚におにぎりが残っているのですから、黙っていても無駄なことだったのですが。

 そのあたりには戦時中に飢餓で亡くなった子供たちがたくさんおり、その霊が土地のノラ犬に取り憑いて食べ物を欲しがるのだ、という話を私がおばあさんから聞いたのは、それからしばらくあとのことでした。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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