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夜泣き/読者のミステリー体験
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夜泣き/読者のミステリー体験

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「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

夜泣き

東京都 36歳 高杉圭一

 昨年11月、S子という女性と結婚しました。式直前まで身辺にやっかいな問題を抱えていたため、新婚旅行先で、ようやく心身ともにストレスから解放されたような気がしたものです。
 結婚後、しばらくは平穏な日々が続きました。ところがある朝のこと、目覚めた私の顔を覗きこみながら、妻が不安そうに聞いてきたのです。
「ねえ、あなた、どうして泣いていたの?」
 私には彼女のいっていることの意味がわからず、ただ呆然と彼女の顔を見つめかえすだけでした。
 彼女はさらに続けてこういいました。
「女の人みたいな声で、ずっと泣いていたのよ」
「きっとイヤな夢でも見ていたんだろう」
 その朝はそういって彼女をなだめました。

 しかし次の日から私は、毎日″夜泣き″をするようになったのです。そうはいっても私自身にはまったく自覚がありません。
「昨夜も泣いていたわよ」
 朝、いわれてはじめてそうなのかと思うだけでした。毎夜続く私の夜泣きに、妻は恐怖を感じているようでした。
 ある夜、自分の夜泣きの声を録音するようにと、妻にボイスレコーダーを手わたしました。
しかしその夜、私はなかなか寝つくことができませんでした。

 実は私には自分の〝夜泣き〞に関して、少なからず心あたりがあったのです。妻にはないしょの話ですが、実は彼女と結婚する直前まで、私は別の女性と深い関係を持っていました。
 相手はRという名の女性で、結婚の約束もし、すでにいっしょに暮らす仲になっていました。しかしS子と出会ったことによって、私のRに対する気持ちが次第に薄れていったのです。そしてRとの結婚式を翌月に控えたある日、私は思いきって打ちあけました。
「好きな人ができた。僕と別れてほしい」
 当然、Rがそんな言葉を受けいれるはずはなく、その後も私たちはいっしょに暮らしつづけていました。そして私は自分が悪いと知りながらも、日ごとにやつれていくRを見るのがつらくて、毎晩のように酒を飲んで帰るようになりました。
 深夜、私が酔って帰宅すると、Rはいつも暗い部屋の中で、か細い声で悲しそうに泣いていました。やがてそんな日々から逃れたい一心で、私は半ば強引に家を出ることに。それから3か月後にS子と結婚したのです。
 翌朝、妻が黙って差しだしたボイスレコーダーを手に取り、再生ボタンを押しました。か細く、なんとも悲しそうな泣き声が延々と聞こえてきます。それはまぎれもなくRの声でした。

 その日の午後、知人を通して、1週間ほど前にRが自殺したことを知りました。なんと私たちがいっしょに暮らしていた部屋で首を吊ったそうです。
 不思議なことに、現在、私の夜泣きは止んでいます。その代わり妻のS子が泣くのです。毎晩、か細く、悲しそうな声で。まるであのころのRのように……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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