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あらゆる幻獣の祖にして王「ドラゴン」/幻獣事典

世界の神話や伝承に登場する幻獣・魔獣をご紹介。今回は、人類最古の記憶に刻まれる脅威「ドラゴン」です。

文=松田アフラ

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スロベニアのリュブリャナにかかる橋に座するドラゴン像。

 西洋のみならず、全世界のあらゆる幻獣・怪物の総大将、総元締めともいえる存在がドラゴンである。「ドラゴン」という言葉自体はギリシア語の「drakon(視る者)」に由来しているが、現存するドラゴンの痕跡は古代ギリシアを楽々と飛び越え、人類最古の文明であるシュメール文明にまで遡ることができる。
 シュメールの神話において世界創造の原初の混沌の象徴とされる海の女神ティアマトは、神々を生みだした存在として知られているが、彼女は開闢以前の神々の戦争において自ら巨大な海のドラゴンに変身し、またドラゴンを初めとするさまざまな怪物たちを産んだ。
 英雄神マルドゥクはこのティアマトを「ふたつに切り裂き、その半分を固定し、天として張り巡らした」。そしてもう半分の方も同様に張り巡らせ、これを大地とした。すなわちティアマトは世界の創造以前の混沌であるとともに、創造された世界の礎でもあった。このことからしてもドラゴンは人類の意識の最古層において極めて重要な役割を果し、混沌、創造、豊饒、多産、智慧など、さまざまな象徴的意味合いを担っていた。

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シュメール神話において原初の混沌たるティアマトはドラゴンの原点のひとつといえるだろう。

 それがキリスト教に採り入れられると、例によってドラゴンは悪の象徴とされるようになった。例えば旧約聖書外典『ダニエル書補遺』には「さて、一匹の巨大な竜がいた。バビロニア人たちは、これをあがめていた」とあり、ドラゴンが元来は中東の神であったことが明瞭に示されている。だがこのドラゴンは預言者ダニエルによって身体を引き裂かれて殺されてしまう。
 さらに『ヨハネの黙示録』では「さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた」とされ、遂にドラゴンは悪魔サタンと同一視されるに至った。

 以後、ドラゴンはキリスト教世界に於いては、大天使ミカエルや聖ゲオルギウスをはじめとする聖人たちに退治されるのがお約束の悪役に落ちぶれてしまう。だがそのキリスト教世界においても、例えば王族の用いる紋章の中に、そして民衆の心の中に、依然としてドラゴンはそれが象徴する自然のエネルギーへの畏敬の念として今も息づいているのである。

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聖ミカエルに退治されるドラゴン。キリスト教世界では悪の象徴になりはてた。
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