幻灯機の女性/読者のミステリー体験
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幻灯機の女性/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

幻灯機の女性

東京都 59歳 池田まりよ

 あれは3年ほど前、千葉県柏市に住んでいたころのことでした。
 ある日、昼間は忙しくて愛犬を散歩に連れていけなかったので、もう夜も11時40分ごろになってから出かけました。
 そのとき、私が散歩コースに選んだのは、それまでもときどき通ったことのある道でした。
右側には住宅と粟畑があり、左側は森になっていました。その道に入って、
30メートルほど行ったあたりで、道の左端に、何やら白っぽいものがあることに気づきました。

 ──あれはなんだろう? ああ、人形が捨ててあるのか。

 と、思いながら2メートルくらいそばまで行ってよく見ると、なんとそれが動いているのです。人形ではありません、それは、まるで古い幻灯機にでも映しだされているような、着物姿の女性でした。

 私は思わずゾッとして足を止めました。
 あるいは近くの家から、だれかが通行人を脅かそうとして、幻灯機でそんなものを映しだしているのかと周囲を見回しましたが、それらしき明かりなど見えず、人の姿もありませんでした。
 その映像のような女性は、身長1メートルくらいで、髪を揚巻(あげまき)に結い、白っぽい矢絣(やがすり)の着物を着て、手には風呂敷包みのようなものを抱え持っているという、まるで時代劇にでも出てきそうなかっこうをしているのですが、そのくせどういうわけかルノアールの絵で見るようなフリルのついた真っ白な日傘を差していました。
 そして、なぜか背伸びをしながらゆっくりと右を見たり左を見たりしています。私のほうを向いたときに見えた顔は、お雛さまかと思うほどきれいでした。ただ、その女性が映像のようなものである証拠に、私のほうを見ていながら、私の存在にはまったく気づいた様子がありませんでした。

 するとそのうち、私のうしろからバスがやってきました。
 そして、その女性の横で停まり、ドアが開いてスーッと彼女が乗り込むと、すぐにドアを閉めて動きだし、あっという間に走り去っていきました。

 それはまさに数秒間の出来事で、私はその提灯のような明かりのついた奇妙なバスのうしろ姿を、ただぼんやりと見送っていただけでした。
 やがて、ハッとわれに返ってあたりを見回しましたが、周囲にはなんの異常もありません。愛犬はおとなしく私の横に座り、じっとバスの去ったほうを見つめていました。
 私は、まさにキツネにつままれたような思いで、とにかく急いで家に帰りました。そして、すぐにその出来事を娘に話しましたが、そのときになって、あの道にはバスは来ないことを思いだしました。当然、娘は私の話をまったく信じてくれませんでした。
 でも、どうしても気になった私は次の日の夕方、同じ場所に行ってみました。すると、あの女性の立っていたあたりの森の木々がすっかり切られており、その中心には大きな切り株がありました。

 私は、なぜかその切り株を見た瞬間に、
 ──もしかしたら、あの女性は、木の妖精だったのかも……。
 と、思いました。

 その後、間もなく、森はどんどん開発されていき、現在ではすっかり見る影もなくなりました。
 私が、木の妖精かもしれないと思った、あの不思議な女性が立っていたあたりには、今ではマンションが立ち並んでいます。きっと、彼女はこうなることを知っていて……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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